教式に支えられ、育てられて
教職経験16年目。ある程度の経験を積み、一通り仕事をこなせるようになった時、A児を担任しました。多動で知的障害(3歳児程度)もありましたが、保護者の強い希望で、38人学級の一員となりました。
管理職の考えで、A児の実態について、担任の私には一言も知らされませんでした。今から30年余も前のことですから、支援体制もありません。入学式翌日からは、今まで経験したことのないことばかりで、積み上げてきたものが、音を立てて崩れていく毎日でした。これでは、子どもたちを育てられないという焦りがつのるばかりです。孤立無援状態の中、一か月後に肚を決めました。
” 私には教式がある ” この想いが通じたのか、A児は、国語の時間には彼なりに参加するようになりました。家庭訪問の際、彼の祖母が、「先生、この子は、ママの次に先生が好きなんですよ。それにバカではありません。『大きなかぶ』を読んでくれます。」私は驚きました。何も分かっていないかったと、A児に申し訳なく思いました。A児は耳で読んでいたのです。そして、教式の力、凄さを改めて実感したのです。
もし、A児に出会わなかったら、私は傲慢な教師になっていたことでしょう。その意味でA児は私の恩人の一人です。
余談ですが、私の退職時に教え子から手紙が届きました。そこに、「A君と過ごした2年間が今の私の仕事につながりました。」と書かれており、胸がいっぱいになりました。
教式に支えられ育てられてきた我が身の幸福を心からありがたいと思います。
島根 M.N